フット・イン・ザ・ドア

ビジネスなどの商談などで、相手を説得するテクニックとして使用されるのがフット・イン・ザ・ドアです。

「片足をドアの間に入れて、閉ざせなくすることができれば、商品を売ったも同然」というビジネスの言葉から由来しています。

心理学では段階的要請法と呼ばれることもあるように、最初に小さな要求から承諾してもらい、徐々に要求を大きくすることで、最終的に本当のお願いを受け入れやすくする効果を意味します。

これは一つのことを承諾してしまうと、その後の要求についても断りづらくなってしまう人の心理を利用した手法です。

また「フット・イン・ザ・ドアとは逆の心理テクニック」として有名なのが「ドア・イン・ザ・フェイス」です。

こちらは最初に非現実的で無理な要求をして、あえて断らせることで生まれる罪悪感を利用した手法になります。

ここではフット・イン・ザ・ドア・テクニックについての心理実験や使用例、使う際の注意点などについて解説していきたいと思います。

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フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは

 

 

フット・イン・ザ・ドアの心理実験

アメリカの心理学者スティンプソンたちが行った実験で、女子大生を対象に簡単な依頼をしたものがあります。

まず最初に「環境問題についてのアンケート10問に答えてほしい」と依頼しました。

もちろん、ただアンケートに答えるだけなので難易度が低い要求であることが分かるように、ほとんどの女子大生が応じてくれました。

しかし本当の依頼はここからで、4日後に「大学から数マイル離れた場所まで行き、そこで木を植えてほしい」とお願いしたのです。

アンケートに比べると難易度が一気に高くなりました。

すると、いきなりこの依頼をした場合に比べ、アンケートに答えることに応じた学生の方が圧倒的に木を植える依頼を承諾したのです。

また、その他の実験でトロントの住民を対象に調査したものがあります。

まず始めに、ガン協会の者であることを伝え「協会が発行しているピンバッジを身につけてくれないか?」とお願いします。

もちろんピンバッジを付けることは簡単なことなので、大半の住民が承諾しました。

しかし依頼はこれで終わりません。

なんと後日に「ガン患者のために臓器提供の同意書にサインをしてくれませんか?」とお願いしたのです。

ピンバッジに比べ、はるかに承諾しづらい依頼です。

ですが驚きの結果が出ました。

いきなり「同意書にサインしてください」とお願いされた場合に承諾したのが46%だったのに対し、ピンバッジをつけることを承諾した後に同意書にサインを求められると74%にまで跳ね上がったのです。

 

フット・イン・ザ・ドアの恋愛テクニック

フット・イン・ザ・ドアを恋愛に応用する前に、社会心理学者のエーリッヒ・フロムが著書の中で取り上げている興味深い例についてご紹介しましょう。

結婚を誓い合ったあるカップルがいました。

彼氏側の両親は彼女のことが嫌いで、結婚に反対しています。

しかし、彼の決意は固く、両親の説得にも応じません。

そこで彼の両親はある条件を出しました。

「6か月間、1人でヨーロッパを旅行して、その間に見聞を広げてくれれば、結婚しても構わない」

もちろん彼は彼女への愛が変わることはないし、旅行はいい機会だと思ったので承諾するのですが・・・

事態は思わぬ方向へ進みます。

彼は旅行先で多くの女性と出会い、もてはやされることで、恋人への愛情が小さくなり、最終的には帰国よりも先に婚約破棄の手紙を書いてしまいました。

では、いつ彼は別れる決心をしたのでしょうか?

それは、手紙を書いたとき、多くの女性と出会ったとき、ではなく「ヨーロッパ旅行を承諾したとき」だったのです。

彼の両親が依頼したのは「半年間のヨーロッパ旅行」でしたが、別の言い方をすれば「半年間は彼女と会うな」と置き換えることができます。

つまり、最初の依頼を承諾した時点で、彼は自分の決意を曲げてしまったのです。

旅行先で女性に出会ったのも事実ですが、それは婚約破棄の直接的な原因ではありません。

最初に両親から提案されたことを承諾してしまったのがきっかけで、旅行先で依頼が繰り返される度に彼女への愛もどんどん小さくなってしまったのです。

なんとも恐ろしいフット・イン・ザ・ドアのテクニックですが、逆に恋愛を実らせる方法としても大いに活躍します。

例えば、意中の人とデートしたいと思っている女性の場合。

フット・イン・ザ・ドアの恋愛テクニックですから、いきなり「デートに行こう!」と誘うのはNGです。

まずは小さな承諾から。

「そこの資料取ってもらえませんか?」

次に、相手の趣味や頼れる所を利用してお願いしてみましょう。

「A君パソコン詳しいよね?私あまり詳しくないから一緒に買い物つきあってほしいんだけど」

当日パソコンを一緒に買いに行きました。

さらに、ここでデートの約束の前に、相手の承諾を得ましょう。

「ありがとう!本当に助かったよ。疲れたしカフェで休まない?」

ここまでくればデートの約束は目の前です!いえ、むしろカフェでお茶している時点で立派なデートです!すみません、取り乱しました。

ともあれ、これで本格的なデートに行ける確率は高くなるはずです。

まずは小さなお願いから徐々に相手の承諾を得ていきましょう。

 

フット・イン・ザ・ドアの実用例

ここでは職場や日常生活などで活躍しそうなフット・イン・ザ・ドア・テクニックの使用例をご紹介していきます。

フット・イン・ザ・ドアは意識すれば誰でも簡単に使えるテクニックですし、ほとんどの人が意識せずとも自然に行ってきた経験があると思います。

方法はいたってシンプルであり、まずは最終的な目標を設定して、次に「これだったら間違いなく相手はOKするだろう」という小さな要求を設定します。

例えば一万円を借りることを最終目標に設定した場合、3千円を小さな要求として設定します。

「申し訳ないんだけど、3千円だけ貸してもらえないかな?」

「それぐらいなら大丈夫だよ」

「ありがとう。あっ、できたらなんだけど念のため5千円、いや1万円でも大丈夫?」

もちろんこれは確実に相手からお金を借りられるテクニックではなく、あくまで「1万円貸してくれない?」といきなり要求した場合と比較して、借りられる確率が高くなるというテクニックです。

次に、契約を取り付けたいと思っている人の例をみてみましょう。

「1台でいいので、1週間のお試し期間として置かせていただけませんか?」

→(1週間後)

「使い勝手はいかがでしたか?もしよろしければ、このまま契約して使っていただけたらと思うのですが・・・」

子供にお手伝いをさせたい場合。

「テーブルの上を片付けてくれる?」

「ついでに自分の部屋もキレイに掃除してね」

会社の部下に仕事をお願いする場合。

また、フット・イン・ザ・ドアには「小さな要求→大きな要求」という2段階だけではなく、さらに小さな要求を間に挟んだ「小さな要求→小さな要求→大きな要求」があります。

つまり小さな要求を2回してから本当の要求をする(Two Feet In The Door)が有効であることが分かっているのです。

「ちょっと相談したいことがありまして、1時間だけ話を聞いてもらえませんか?」

→OK

「実はクライミングを習おうかと思っているんですけど、1人で始めるのは不安なので、一度一緒に行ってくれませんか?」

→OK

「楽しかったですね!よかったら、このまま一緒に続けませんか?」

中には人に頼みづらいお願いをしなくてはならない場合もあるでしょう。

そんなときこそ、フット・イン・ザ・ドア・テクニックを応用することにより、承諾してもらえる確率を高めることが期待できます。

 

フット・イン・ザ・ドアを使う際の注意点

フット・イン・ザ・ドアを使う際の注意点は2つあります。

まず1つ目は「小さな要求」と「本当の要求」の差が大きくなり過ぎないようにすること。

ある調査では、「最初の要求」と「次の要求」に大きな差があると失敗するという結果が出ているのです。

「10円貸してもらえる?」

「10万円貸してもらえる?」

極端な例ですが、これではもちろん承諾してもらえません。

「10円貸してもらえる?」

「100円貸してもらえる?」

最初の要求を相対的に考えて設定することで、フット・イン・ザ・ドアの効果が有効であると考えられます。

2つ目に、最初の要求に金銭的な報酬を与えてはいけないこと。

要求を承諾した見返りとしてお金を渡されると「買収された」印象を持つことがあります。

また「そんなお金受け取らなくても引き受けるのに」といったような相手の自尊心を傷つけてしまう場合も考えられるのです。

心理学者のズッカーマンは5分間のインタビューを頼んだ後に、25分のインタビューをお願いするという実験を行っています。

このままの方法でお願いすると64.3%の割合で応じてもらえたのに対し、5分間のインタビューをお願いしてから金銭的な報酬を払うと33.3%にまで低下しました。

これは子供の教育の面でも同じことが言えます。

もしも子供に勉強してほしいと考えているとして「毎日30分だけ勉強して」→「毎日45分だけ勉強して」というようにフット・イン・ザ・ドアを使えば問題ないのですが。

「毎日30分勉強してくれれば、お小遣いをあげる」などというように言ってしまうのはNGなのです。

また、最初の要求に金銭的な報酬を付け加えてしまうと、次の要求に対して、さらに大きな報酬を求める傾向にあることが分かっています。

 

もしもフット・イン・ザ・ドアを使われたら

では最後に、相手にフット・イン・ザ・ドア・テクニックを使われたときのための対処法をご紹介しましょう。

先ほども説明したようにフット・イン・ザ・ドアは日常生活でも広く使われていて、お金の貸し借り、ショップ店員の接客、セールスマンの販売でもよく目にします。

「私はそんなのに騙されない」

「自分の意志をしっかり持てば大丈夫」

などのように自分で意識しても、いざ目の当たりにすると余計な物を買ってしまった経験は誰にでもあるはずです。

では、どうすればフット・イン・ザ・ドア・テクニックに対処できるようになるのか?

ポイントは2つあります。

1つは「最初の小さな要求」を受け入れないようにすること。

何度も説明しているように、フット・イン・ザ・ドアは「小さな要求」をした後に「大きな要求」(本当の要求)をするテクニックです。

ですから「私は大丈夫だろう」とタカをくくるのではなく、ハナから自分が歓迎したくないと思う要求をシャットアウトしてしまうのです。

しかし、中には相手が友達であったり、お世話になった人であるために断れないケースもあります。

そこで2つ目のポイントです。

それは「最初の小さな要求」と「本当の要求」をハッキリと分けて考えること。

「フット・イン・ザ・ドアを使う際の注意点」で説明したように、最初の要求と本当の要求に大きな差がないために、本当の要求を受け入れやすくなるということをお伝えしました。

つまり2つの要求を全くの別物として考えることができれば、たとえ最初の要求に応じてしまったとしても、次の要求をハッキリと断ることができるのです。

そうすれば「千円貸すのはよかったけど、一万円は貸さなければよかった」などのように後悔しなくて済みます。

もしも相手にフット・イン・ザ・ドア・テクニックを使われていると感じたら「これはコレ、それはソレ」と割り切って考えられるようにしておきましょう。

以上がフット・イン・ザ・ドアの解説になります。

このテクニックを仕事や人間関係の中で、良い意味で有効に使っていただけたらと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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