ドアインザフェイステクニック

ビジネスにおいて交渉テクニックとしてよく使われる「ドア・イン・ザ・フェイス」は、最初に非現実的な大きい要求をして、相手に断られた後に、要求のハードルを下げて承諾させるテクニックを意味します。

由来となっているのは英語の「shut the door in the face(門前払いする)」というフレーズからだと言われています。

人の心理として、それがどんなに非現実的で大きな要求だったとしても、「断る」ことで何かしらの罪悪感を持ってしまうものです。

そして、一度断りを入れてしまうと「次の要求はOKしなくては」というプレッシャーや義務感が生まれます。

たとえ断り続けたとしても、その度に罪悪感が高められてしまうため「いっそのこと承諾してしまおう」というのが人間の心理なのです。

ここでは「ドア・イン・ザ・フェイスのテクニック」をご紹介するとともに、実用例、注意点についても解説していきたいと思います。

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ドア・イン・ザ・フェイスの使い方

 

 

ドア・イン・ザ・フェイスの心理実験

アメリカを代表する社会心理学者でアリゾナ州立大学の教授を務めているチャルディーニは、大学生を対象に「ドア・イン・ザ・フェイス」テクニックの効果を検証しました。

まず初めに「これから2年間、毎週2時間ずつ、青年カウンセリング・プログラムに参加してくれないか?」と頼みます。

このプログラムはボランティアであって報酬は無いため、ほとんどの学生が依頼を断りました。

そこで要求を「ある日の午後、1日だけ子供たちを動物園に連れていってくれないか?」というようにハードルを下げてみました。(実はこちらが本当の要求)

カウンセリング・プログラムに比べれば簡単な要求ですが、それでも回避できるのならしたいと思うようなお願いです。

結果、この要請をいきなり求めた場合、たったの17%の学生しか承諾してもらえませんでした。

しかし、最初に断りを入れている学生の場合、約50%もの学生が引き受けたのです。

その他の研究でも、道行く学生に「学習訓練のために人間に電気ショックを与えてくれないか?」と頼んでみたところ大半の学生が断りました。

ですが続けて「では、人間ではなくネズミに電気ショックを与えてくれないか?」と頼むと、多くの学生が渋々受け入れたのです。

人間に電気ショックを与えるなんて気分が悪くなる、と思ったとしても「ネズミなら」とうように要求を比較して小さく考えてしまうことがわかります。

 

ドア・イン・ザ・フェイスの実用例

日常生活においても無意識のうちにドア・イン・ザ・フェイスのテクニックを使っている場合があります。

例えば、会社の部下にデータをまとめてほしいとき、「明後日までにお願い」と要求して「忙しいので無理です」と断られた場合に、「じゃあ1週間後までならできる?」とハードルを下げます。

すると部下は「上司が譲歩してくらたのだから自分も譲歩しなくては」と感じ、引き受けやすくなります。

出版業界においても「最終的な締め切りは1週間後でお願いします」と言われ、とてもじゃないが無理だと断ると「では10日待ってもらえるよう編集長に掛け合ってみますので、お願いします」と言われ「わかりました」と承諾せざるおえなくなります。

子供の教育においても「毎日1時間勉強しなさい」と最初に伝えるのは損をしているかもしれません。

ドア・イン・ザ・フェイスのテクニックを使って、まず「毎日3時間勉強しなさい」と伝え「そんなの無理だよ」とあえて言わせます。

すかさず「じゃあ1時間だけでもいいから机に向かいなさい」とお願いすれば格段にお願いを引き受けやすくなるのです。

恋愛テクニックとしても、女性に対していきなり「今度デートしない?」と誘い、断られた後すぐに「じゃあメアドだけでも」(こちらが本当の目的)というように使われることもあります。

このように例を挙げればきりがないほど、このテクニックは広く使われています。

「本当の要求」の前に「到底無理な要求」というワンクッションを挟むことで、承諾される確率も大きく変わってくるでしょう

 

ドア・イン・ザ・フェイスの注意すべき点

ドア・イン・ザ・フェイスのテクニックを用いる場合、2つのポイントに注意しなければなりません。

一つ目は、非現実的な要求の後「すぐに」次のハードルを下げた要求をしなければならないこと。

例えば「一万円貸してくれ」と頼んで断られて、数日経過した後に「千円でいいから」とお願いしても、拒否される確率は高まります。

ある調査では、1週間も経つとドア・イン・ザ・フェイスの効果は、ほぼゼロになるというデータも出ています。

二つ目に「最初の要求で相手を怒らせてはいけないこと」があります。

最初の要求が大きすぎてしまうと、相手は怒りや敵意を持ってしまうことがあるのです。

例えば、住宅販売を行っているとして、相手の予算も考えずにやたら高い物件を紹介しても、それは単に顧客を怒らせてしまうに過ぎません。

つまりテクニックを使う相手に合わせて、最初の要求を「断ると罪悪感を持つ」くらいのレベルにすることがポイントになります。

 

ドア・イン・ザ・フェイスを使われたときの対処法

ではドア・イン・ザ・フェイスのテクニックを使われたとき、どう対処すればいいのか?

それは「不要な罪悪感を持たない」ことです。

ドア・イン・ザ・フェイスは断ることに対しての罪悪感を利用したテクニックなので、そういう意識を持たないように心掛ければ、はっきりと「NO!」と言えることができます。

またこの記事をご覧になっている方は、ドア・イン・ザ・フェイスがどういったテクニックなのか理解しているので、対処することも簡単なはずです。

しかしながら、この心理テクニックが悪徳商法に利用されるように、多くの人が騙されてしまうのも事実。

「今ならこの羽毛布団100万円でお売りします!」

「そんなお金ありません」

「わかりました、では奥様だけの特別価格で30万円にしましょう!」

騙されてはいけません!悪徳業者は元々30万円で購入させようとしています!

ですが、中にはお世話になっているため、どうしても断れない関係性である場合もあるでしょう。

そんなときは、こちらも同じようにドア・イン・ザ・フェイスのテクニックを使って対処することが可能です。

「10万円貸してくれない?」(非現実的な要求)

「無理です」

「じゃあ5万円でもいいから」(本当の要求)

「1000円ならいいですよ」(非現実的な要求返し)

「それはいくら何でも」

「わかりました、じゃあ1万円だけ」(本当の要求返し)

こうすれば相手に主導権を握られることもありませんし、相手から感謝される気持ちもより大きくなります。

ただし、ベストは自分に罪悪感を持たずにハッキリと断ることをお忘れなく。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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