好意の返報性

心理学における「好意の返報性」とは、相手から受けた好意に対して「お返しをしなくては」と考える心理を意味します。例えば、男性が女性に誕生日プレゼントを渡せば、今度はお返しにその人の誕生日を覚えておいてプレゼントを渡そうと思うことなどがあります。

恋愛やビジネスにおいても「好意の返報性」は広く知られているテクニックであり、好きな気持ちをさりげなく伝えることで、自然と相手からも好意を抱いてもらえることが期待できます。

また日本語や英語だけではなく、多くの言語に「恩に着ます」という表現が「ありがとうございます」という意味合いを持っているように、好意の返報性は世界的にも共通している心理だと言えるでしょう。

今回はそんな「好意の返報性の心理実験や使い方」をご紹介していきたいと思います。どれだけの心理効果があるのか、恋愛に活用する場合の注意点、日常生活で使われる例、返報性が分かる心理実験などについて解説していきます。

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好意の返報性のまとめ

 

 

好意の返報性が分かる心理実験

好意の返報性その1

私たちが思っている以上に「好意の返報性」は強い威力を持っています。社会的にも、このルールを守るのが当たり前だと教えられますし、受け取るだけで何もお返しをしない人々に対して嫌悪感を抱くこともあります。

心理学者のデニス・リーガンは「美術鑑賞」という名目で、ある実験を行いました。参加した被験者は、もう一人の被験者とともに作品評定します。ただし、もう一人の被験者はリーガン博士の助手であり、あたかも別の被験者を装っていたのです。そして博士の助手は短い休憩時間に被験者に対して小さな親切をします。それは一旦休憩している部屋から離れ、コーラを2本持って戻り相手に1本をあげることでした。

すべての絵画の評定が終わると、博士の助手は被験者にある頼みごとをします。「新車が当たるクジ付きのチケットを売っているのですが、1枚25セントのチケットを何枚か買ってもらえませんか?」つまり被験者にコーラをあげた場合と、休憩時間にただ部屋を出て何も持たずに戻ってきた場合とでチケットの売れ行きを比較したのです。

ご想像の通り、コーラを渡した被験者の方が買ったチケットの枚数は多くなりました。しかしながら驚くのはその枚数の違い。コーラを渡された被験者は何か借りがあると感じたのか、コーラを渡されなかった被験者に比べて2倍もの枚数のチケットを買っていたのです。(実験が行われたのは1960年代、当時のコーラの値段は10セント)

 

ビジネスにも応用される好意の返報性

好意の返報性その2

好意の返報性はビジネスの場面でもよく使われます。日常生活の中でよく目にするのが、無料の試供品を配布するというマーケティングのテクニックです。サンプルを配ってその製品の良さをアピールする狙いもありますが、無料の試供品が一種の贈り物であることから、無意識のうちに好意の返報性が威力を発揮します。

アメリカの日用品を販売しているアムウェイ社は、短期的に急成長した企業として有名で、バッグ(BUG)と呼ばれるやり方の中で無料の試供品を提供しました。バッグは、アムウェイ社製の商品(家具用クリーナー、洗剤、殺虫剤など)をひとまとめにして顧客に届けられます。

また営業の極秘マニュアルとして「無償で試供品を1~3日使ってもらう」という手法を採用しました。試用期間が終わると、販売員はその家庭に戻っていき、客が買いたいと思う製品の注文を取ります。お気づきだとは思いますが、お客側は「無料の試供品」を受け取った時点で「好意の返報性の魔力」にかかっていました。

さらにはアムウェイ社の販売員たち自身もバッグの驚異的な力に当惑していました。今となっては何とも単純な手法だと思えますが、ひとつの企業を急成長させるほどの力が「好意の返報性」にはあると言えるでしょう。しかしながら、消費者にとっては「タダほど高い物はない」と心得て無駄な買い物をしないようにしたいものです。

 

好意を拒むことによって自らの命を救った女性

好意の返報性その3

好意の返報性の威力について解説していますが、逆に相手からの好意を拒否することで自らの命を救った女性の事例があります。1978年、ジョーンズタウンのリーダーであったジム・ジョーンズはそこの住民に集団自殺をするようにと呼びかけました。すると、多くの住民が毒入りの飲み物を自ら含んでしまったのです。

しかし、住民の一人であったダイアン・ルイは、ジョーンズの命令を受け入れず街から抜け出すことに成功していました。彼女がそうできた理由は、彼からの恩恵を受けなかったことが関係しています。以前、彼女が病気だったとき、彼から特別食の提供があったのですが、彼女はその申し出を断っていたのです。

ジョーズがなぜあのような愚かな行動に出たのかはわかりませんが、街の多くの人達に「貸し」とも思える恩恵を与えていたが故に、このような参事が起こってしまったと考えられます。ルイは好意の返報性の威力をよく理解していたおかげで、自らの命を救うことができたのです。

 

恋愛における好意の返報性の注意点

好意の返報性その4

相手に好意を伝えるだけで、自分にも返ってくることが分かりました。しかし、恋愛において好意の返報性を使用する際にはいくつか注意点があります。それは、いきなりド直球に「好きです!」と伝えないこと。あくまでさりげなく自分の好意を伝えることがポイントになってきます。

では、さりげなく好意を伝えるには具体的にどういった方法があるのか?それは人が好きな人を前にしたときの行動やしぐさを見れば分かります。好きな人を前にすると、自然と笑顔が多くなり、相手を見つめる時間も多くなるはずです。また相手の好みや会話の内容をよく覚えていることを伝えれば、さりげなく気にかけていることをアピールすることもできます。

その他にも「相手の名前」を呼ぶことだけでも「自分を意識してくれている」と実感してもらえるでしょう。女性の場合ですと、お決まりの「ボディータッチ」がどれだけ効果的かご存じのはずです。会話のテクニックとしては、相手の過去の言動を引き合いに出すことなどがあります。例:「A君がおもしろいって言っていた映画、この前見たよ!」

さらに相手に好意を伝える上で「ほめる」ことも非常に効果的です。特に「相手自身は気づいていなくて、まわりが気づいていること」をほめるのが最も嬉しさを感じると言われています。美人で有名な女性に「美人ですね」とほめるよりも「キレイな字を書きますね」などとほめた方が嬉しく感じるというわけです。

 

寄付における好意の返報性

好意の返報性その5

好意の返報性が効力は、何も相手に対する好意度が高ければ発揮するだけではありません。つまり相手のことを好きか嫌いかは関係なく、誰からでも好意を受け取ってしまったら返さないと思うのが人の心理なのです。

インドの宗教団体のハレー・クリシュナ協会の例を見てみましょう。この協会の大きな財源の一つに公共の場で通行人から得る寄付金があります。この活動が始められた頃は、頭の毛を剃り、だぼだぼの衣装を着て、ビーズの首飾りをしたクリシュナの一団が鐘を鳴らしながら歌い、アメリカの街頭で寄付金を募っていました。

人の注意を引くという意味では効果はありましたが、募金活動としては大きな成果を上げることができません。この協会の行動は奇怪に感じられてしまい、外見や服装もアメリカ人に好まれるようなものではありませんでした。

服装や行動をアメリカ人受けの良いものに変更すれば簡単に解決する問題でしたが、宗教的な必要性から変更することはできません。そこで、必ずしも良い印象を持たれなくても寄付金を募れる方法を考え出しました。

今までと同様に人通りの多い公共の場で寄付金を募ることは変わりないのですが、ねらいをつけた人に対して本あるいは花といったプレゼントを渡したのです。通行人は、突然自分の手に花を渡され、拒否しようにも「これは私たちからのプレゼントですから」と言って返すこともできない状況に追い込まれます。それから寄付金をお願いしました。

つまり返報性の力を知った上で、一方的にプレゼントを贈り、その後に寄付金を募ったのです。この効力は絶大な経済的利益をおさめ、寺院や建物を所有する資金、多くの協会支部を持つようになりました。しかしながらクリシュナ協会の寄付金の成功は長く続くものではありませんでした。

それは好意の返報性の力が弱まったのではなく、それを使わせない方法を多くの人が身につけたからです。一度は彼らの手法によって寄付をしたけれども、次にクリシュナ協会の団体が寄付を募っているところを遠くから見つければ、まわり道をして会わないようにしたり、無償のプレゼントを受け取らない方法を準備したのです。

好きか嫌いかによって影響を受けない好意の返報性ですが、同じ手法は何度も通用しないことがよく分かると思います。今でこそ、いきなり花を贈るような団体はいませんが、無料の試供品やエステ体験といったように形を変えて好意の返報性が悪用されるケースがあるのも事実でしょう。

 

好意の返報性が生み出す不公平な交換

好意の返報性その6

好意の返報性は平等な交換をするために発展してきたものなのですが、自分の利益を優先することから何とも不平等な結果を招くこともあります。ある好意に対して同等の好意でお返しをするのは自然なことではありますが、かなり融通がきくのも事実です。

冒頭で紹介したデニス・リーガンが行った心理実験を改めて見てみましょう。彼の助手はコーラを1本渡すことで1枚25セントのチケットを何枚か買って欲しいと頼みました。当時のコーラの値段は10セントなので、チケットの売り上げ枚数が倍になったことを考えれば低コストで大きな成果を上げたと言えるでしょう。

なぜコーラ1本に対して、大きすぎるとも考えられる見返りを人はしてしまったのか?それには恩恵の感情が明らかに負担を感じさせるものであることが関係しています。ほとんどの人は「恩恵を受けている状態」を不快に感じます。その根本にあるのは、人間社会におけるシステムの中に助け合うことが極めて重要であることです。

他者の親切に対して返報する必要性を無視するようになると、相互にお返しをつなげていく関係を断ち切ることになり、将来的に相手が親切をしてくれる可能性低くなります。そうなると社会のルールに反していると感じます。つまり私たちは子供の頃から恩義を受けると何か落ち着かない気持ちになるように訓練されているのです。

また社会的にも返報性のルールを破ることで「たかり屋」だとか「恩知らず」というレッテルを貼られる恐れがあります。もちろん本人の止むを得ない状況によって好意を返せない場合は除きます。しかしながら、ほとんどの場合、お返しをしないという行為は嫌われるものです。

これらの「心の不快感」や「恥をかく危険性」が組み合わされると、心の大きな負担となります。この心の負担という考え方からすれば、小さな好意に対して大きな好意でお返ししようとするのも何ら不思議ではありません。

 

まとめ

以上が「恋愛だけじゃない好意の返報性」のまとめになります。相手に好意を示せば、それが返ってくることが分かりました。しかしながら、私たちが思っている以上に「好意の返報性」は大きな影響力を持っているようです。必ずしも公平な交換とは言えないことであっても、社会的ルールの中で、その条件を受け入れてしまうこともあります。

また年輩の未亡人を対象とした研究では、最も幸福感を感じるのは、自分が受け取った量と同じ程度の援助を友人に与えていた人達であることが分かりました。つまり自分の方が援助を与え過ぎてしまっている人、あるいは受け取り過ぎている人は孤独を感じ、満足感も低くなると考えられます。

恋愛においても一方的に好意を与え続けることは、必ずしも相手や自分に良い影響を与えるとは限りません。好意のラリーとも言えるような、相手が望むものを自然に与えられるような関係が理想だと言えるでしょう。好意の返報性を上手く活用して、より良い人間関係や恋愛関係を築けていただけたら幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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